慢性腎臓病(CKD)— 症状が出る前に、腎臓は守れます

健診で「クレアチニンが少し高い」「尿蛋白が出ている」と言われたことはありませんか。 腎臓は”沈黙の臓器”です。自覚症状が出たときには、すでに機能の大半が失われていることも珍しくありません。 しかし今は、早く気づけば腎臓の寿命を10年、20年と延ばせる時代になりました。 このページでは、当院院長が制作した解説動画3本とあわせて、腎臓を守るために知っておきたいことをまとめました。

1.腎臓の役割と、受けるべき検査

腎臓は血液をろ過し、老廃物や余分な水分・塩分を尿として体外に出す臓器です。 機能が落ちると、最終的には尿がつくれなくなり、血液透析を続けなければ命を維持できない状態になります。

透析が必要になるのは末期腎不全の段階です。初期から中期の腎機能障害には、一般に症状がありません。 これが腎臓が「沈黙の臓器」と呼ばれる理由です。

では症状がなければ放置してよいのか。答えは明確に「いいえ」です。理由は2つあります。

理由① 一度悪くなった腎機能は、戻らないことが多い

 急性の一時的な原因なら回復することが多いですが、慢性的に徐々に低下した腎機能は、回復させられないことがほとんどです。

理由② 腎機能の低下は、命に関わる病気を招く

 腎機能が悪化すると、心筋梗塞・心不全・脳卒中・末梢動脈疾患の発症率が明らかに上昇します。 eGFR が 60 mL/min/1.73m² 未満の人では、心筋梗塞のリスクが約2倍、脳梗塞・脳出血のリスクも1.5〜2倍以上に増加することが、多数の疫学研究で示されています。

何を調べればよいか

まず必要なのは、血液検査と尿検査です。

検査 項目 意味
血液検査 血清Cr(クレアチニン) 腎臓の濾過機能の指標
血液検査 eGFR(推算糸球体濾過量) Crと年齢から算出。60未満で腎機能低下あり、15未満で透析導入の検討段階
尿検査 尿蛋白 腎障害のサイン
尿検査 尿アルブミン 糖尿病では特に重要。早期の変化をとらえる
尿検査 尿潜血 腎臓の異常を疑う所見

慢性腎臓病(CKD)の定義

次の①②のいずれか、または両方が 3ヶ月以上持続 する病態を指します。

  1. ①GFR で表される腎機能の低下(GFR<60 mL/分/1.73m²)
  2. 0.15 g/gCr 以上の蛋白尿、もしくは 30 mg/gCr 以上のアルブミン尿、または腎障害を示唆する血液・画像検査所見。

進行度(ステージ分類)は、GFR と蛋白尿・アルブミン尿の程度の組み合わせで決まります。

腎臓を悪化させる原因

最大の原因は 高血圧 と 糖尿病。次いで、脂質異常症(LDLコレステロール高値)、高尿酸血症、そして 喫煙 です。 そのほか、慢性腎炎、多発性嚢胞腎、薬剤性(特に NSAIDs と呼ばれる痛み止め)、腎結石なども原因になります。

なぜ生活習慣病が腎臓を壊すのでしょうか? 片方の腎臓には「ネフロン」という尿をつくる装置が約100万個あります。ネフロンは糸球体と尿細管からなり、血液は糸球体を通るときにろ過されます。 この糸球体は細い血管の集合体です。つまり血管が傷つけば、ネフロンが壊れる。そして壊れたネフロンは再生しません。 動脈硬化を進める病気がそのまま腎臓を悪化させる病気になります。

2. 腎臓を守る7つの生活習慣管理

腎臓を守るとは、血管を守るということです。ここでは具体的な7つの管理ポイントを挙げます。

① 食事 — 減塩(理想:1日6g未満)と適切なたんぱく質量

塩分がなぜ悪いのか

塩分過剰は血圧を上昇させ、腎機能を悪化させます。しかしそれだけではありません。 塩分を摂りすぎると、ナトリウムを排泄するために糸球体に過剰な負荷がかかり、長期的には濾過機能の悪化や蛋白尿につながります。 また高塩分食は腎臓内の酸化ストレスや炎症物質(IL-6、TNF-α など)を増やし、腎組織の線維化を進めることが示されています。 CKD ではナトリウムの排泄機能自体が落ちているため、少量の塩分でも負荷が大きくなります。 さらに、腎保護作用のある RAS阻害薬(降圧薬)を使っている場合、塩分が多いとその効果が減弱してしまいます。加工食品・外食は特に塩分が多いため注意が必要です。

たんぱく質の考え方

たんぱく質は分解されると尿素・クレアチニン・アンモニアなどの老廃物になります。腎機能が低下するとこれらが体内に蓄積します。 また高たんぱく食は糸球体の濾過機能を過剰に働かせ、糸球体障害や尿蛋白の増加を招きます。制限は「糸球体を休ませる」ことでもあります。

ステージ たんぱく質摂取の目安
G1〜G2(GFR>60) 過剰摂取を避ける
G3a(GFR 45-59) 0.8〜1.0 g/kg標準体重/日
G3b〜G5(GFR<44) 0.6〜0.8 g/kg標準体重/日

ただし高齢の方が過度に制限すると、エネルギー不足から筋肉量低下・低栄養を招きます。極端な制限は望ましくありません。 適切な量は個別に判断が必要です。必ず主治医にご相談ください。

② 血圧の管理(目標:130/80 mmHg 未満)

血圧管理は、腎臓を守る最強の習慣です。 「腎臓が悪いから血圧に気をつける」のではありません。血圧を管理することが、腎臓の未来を守るのです。 特に蛋白尿がある方は腎臓が傷んでいる証拠であり、より厳密な管理が必要です。

分類 血圧目標(mmHg) 補足
蛋白尿あり <130/80 アルブミン尿 ≧30 mg/gCr または蛋白尿(+)
蛋白尿なし<140/90 まず収縮期140未満を目標に
糖尿病あり <130/80 より厳格な管理を推奨

※家庭血圧は上記より -5 mmHg が目安です。 ※高齢の方では低血圧によるめまい・立ちくらみ、腎血流低下にも注意が必要です。目標値は主治医にご確認ください。

③ 血糖の管理(目標:HbA1c 7.0% 未満)

糖尿病は透析導入の最多の原因です。血糖管理が腎臓を救います。 コントロール目標は一般に HbA1c 7.0% 未満。ただし高齢の方では 7.5〜8.0% とすることもあり、個別に設定されます。

ここで重要なのは、糖尿病の方が腎臓を守るには HbA1c だけでは足りない という点です。 血糖と同じくらい血圧が大切で、さらに LDLコレステロール、体重、運動習慣、禁煙。これらすべてが腎臓に影響します。 数値ひとつではなく、全身の総合管理で腎臓を守ります。

④ 脂質異常症の管理

LDLコレステロールが高いと腎臓の血管にも動脈硬化が起こります。脂質管理により、心血管病と腎機能低下の両方を抑制できる可能性があります。

患者背景 LDL-C 目標値
冠動脈疾患あり <70 mg/dL
糖尿病あり <100 mg/dL
合併症なし <120 mg/dL

※HDL-C ≧40 mg/dL、中性脂肪(TG)<150 mg/dL も目安となります。 基本は食事療法・運動療法。改善がなければ薬物療法が推奨されます。

⑤ 尿酸値の管理(目標:6.0〜7.0 mg/dL 以下)

尿酸が高いと痛風になる——それだけではありません。 尿酸は動脈硬化、糸球体の炎症、酸化ストレス、腎間質の線維化の原因となり、腎臓に直接ダメージを与えます。 一般に 6〜7 mg/dL 以下が目標。痛風発作の既往がある方、腎結石のある方は 6 以下 が目標です(関節や腎臓にできた尿酸結晶が溶けやすくなるため)。 原因は過食、プリン体・脂肪・たんぱく質の摂りすぎ、飲酒、運動不足です。

⑥ 運動と体重管理(目標:BMI 18.5〜24.9)

ウォーキングや体操などの有酸素運動を、週3〜5回・1回30分程度(週150分)。 血圧・血糖・脂質・肥満が改善し、間接的に腎臓を守ります。(eGFR 30 未満の方、心疾患を合併している方は個別の相談が必要です。主治医にご確認ください。)

肥満があると糸球体に負担がかかり、濾過機能の低下が早まります。 体重を3〜5%落とすだけでも、尿蛋白が減り腎機能低下が緩やかになる可能性があります。 無理な食事制限ではなく、バランスの取れた食事と軽い運動が要点です。

⑦ 禁煙と節酒

タバコは腎臓の毛細血管を傷つける有害物質の塊です。 喫煙者は非喫煙者に比べ、末期腎不全(透析)へ進行するリスクが 1.5〜2倍 になります。禁煙は腎臓を守る最短ルートです。

アルコールは純アルコール 20g/日 程度が目安。特にビールや日本酒は高尿酸血症を助長し、腎結石や腎障害の一因になります。

どれも地味で当たり前——そう思われたでしょうか。その通りです。 当たり前のことを地道に続ける。それが腎臓を守る最強の習慣です。

3. 腎臓を守る「薬」がある時代です

糖尿病や高血圧で通院されている方の中には、「腎臓の数値が少し悪いですね」と言われた経験のある方も多いのではないでしょうか。 けれども、そのときに腎臓を守るための具体的な薬について詳しい説明を受ける機会は、決して多くないかもしれません。

腎臓病は進行するまで症状が出ません。だからこそ「早い段階で見つけ、適切な薬を始めること」が決定的に重要です。 そしてここ数年、腎臓を守る効果がしっかり証明された薬が続々と登場しています。 今は、早期に気づいて対策を始めれば、腎臓の寿命を延ばすことができる時代なのです。

① RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)

長い間、「腎臓を守る薬」として信頼されてきたのは、このグループの薬だけでした。

  • 仕組み:体内のアンジオテンシンIIの働きを抑え、血圧を下げるとともに、糸球体にかかる圧力をやわらげてフィルターの損傷を防ぎます
  • 代表的な薬:エナラプリル(レニベース®)、ロサルタン(ニューロタン®)、テルミサルタン(ミカルディス®)、オルメサルタン(オルメテック®)など。「〜プリル」「〜サルタン」が目印です
  • 注意点:血圧が下がりすぎることがある/カリウム値が上がることがある(血液検査が必要)/空咳が出ることがある/投与初期に eGFR が低下することがある

② SGLT2阻害薬

もとは糖尿病の治療薬でしたが、現在は心臓と腎臓を守る力が非常に強い薬として広く使われています。

  • 仕組み:尿の中に糖と塩分を排出することで、腎臓のろ過機能への負担を減らし、糸球体と尿細管を守ります
  • 代表的な薬:エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)、カナグリフロジン(カナグル®)
  • 多くのメリット:心不全の予防・治療/血圧低下/体重減少/血管・脳の保護効果も期待
  • 注意点:尿路感染・性器感染(特に女性)/脱水やケトアシドーシスはまれだが注意(食事や水分が十分摂れないときは一時中止が大切)/尿糖は陽性になりますが、これは薬の正常な作用で心配ありません

RAS阻害薬や SGLT2阻害薬を始めた直後、eGFR が少し下がることがあります。 これは イニシャルドロップ(ディップ) と呼ばれる現象で、薬がしっかり効いて腎臓の負担を減らしている証拠です。 一時的に数値が下がっても、長期的には腎機能低下のスピードを大幅に抑えてくれます。 ただし変動が大きい場合は調整が必要ですので、定期的な検査が欠かせません。

③ MRA(フィネレノン)

比較的新しい薬、フィネレノン(ケレンディア®)です。MRA と呼ばれるタイプで、2022年から日本でも使われ始めました。

  • 仕組み:腎臓や心臓の細胞にある受容体に作用し、炎症と線維化を抑えて臓器を守ります
  • 効果が期待できる方:蛋白尿のある2型糖尿病の方。RAS阻害薬と併用することで腎保護効果がさらに高まります
  • 注意点:カリウム値が上がることがある/血圧低下に注意/初期の eGFR 低下は少ない

早く始めるほど、守れるものが大きい

腎機能がかなり悪くなってから薬を使っても、透析を少し遅らせるのがやっとかもしれません。 しかし、腎機能がまだ十分にある段階から始めれば、10年、20年以上も透析を先延ばしにできる可能性があります。

薬を始めることに不安を感じる方もいらっしゃると思います。 ですが「適切な薬を、適切な時期に使うこと」は、腎臓だけでなく心臓、そして日々の生活の質を守ることにつながります。

ひとつでも当てはまる方は、腎機能の検査を

  • 健診で「クレアチニン」「eGFR」「尿蛋白」を指摘されたことがある
  • 高血圧または糖尿病で通院している
  • コレステロールまたは尿酸値が高い
  • 喫煙している
  • 痛み止め(NSAIDs)を長期に飲んでいる
  • 家族に腎臓病・透析の方がいる
  • 健診を2年以上受けていない
  • 健診で「クレアチニン」「eGFR」「尿蛋白」を指摘されたことがある
  • 高血圧または糖尿病で通院している
  • コレステロールまたは尿酸値が高い
  • 喫煙している
  • 痛み止め(NSAIDs)を長期に飲んでいる
  • 家族に腎臓病・透析の方がいる
  • 健診を2年以上受けていない