こんにちは。しながわ内科・循環器クリニック院長の品川弥人です。
今回は“腎臓を守るために大切な生活習慣病の管理”について説明します。(YouTubeのリンクはページの下部にあります。)どうすれば腎臓を守ることができるのか?腎臓を気にしたことがない方にも、今日からできるヒントをお届けします!
生活習慣病と腎臓のこわ〜い関係
なぜ生活習慣病が腎臓に悪いのでしょう?その理由は、前回の動画で説明したように、腎臓は糸球体と尿細管というパーツからできているネフロンという小さな装置の集まりなのですが、主にこの糸球体がダメージを受けるからです。
たとえば…
・高血圧 → 血管が硬くなり、腎臓に高い圧がかかり、糸球体が壊れる
・糖尿病 → 糖が血管を傷つけ、糸球体が壊れる
・ 脂質異常症 → 動脈硬化が進み、腎臓の血流が減少
これらがじわじわと腎臓をむしばんでいくんです。
それでは、腎臓を守る7つの生活習慣病の管理ポイントについて説明します。
1)食事療法; 減塩(理想:1日6g未満)と適切なたんぱく質摂取量
食事で注意すべき点はまずは塩分!そして、たんぱく質の摂取量です。
一番大事なのは塩分です。塩分摂取が過剰だと血圧が上昇しますので、それによって腎臓を悪化させる原因になります。ただしそれだけでなく、塩分過剰自体も腎臓に悪いのです。塩分を摂りすぎると、ナトリウムの排泄が必要になり、腎臓の糸球体に過剰な負荷がかかります。
長期的には、糸球体に負担がかかり、ろ過機能の悪化や蛋白尿の発生につながる可能性があります。また、高塩分食は、腎臓の中で酸化ストレスや炎症物質(IL-6やTNF-αなど)を増やすことが示されています。これにより、腎組織の線維化(硬くなること)や細胞の壊死が進み、腎機能が低下しやすくなります。
また、慢性腎臓病(CKD)では、ナトリウムの排泄機能が落ちているため、少量の塩分でも腎臓に過剰な負荷がかかることがあります。
さらに、高血圧を合併している方は、腎臓の保護効果があるRAS阻害薬という種類の降圧薬を使うことが多いのですが、塩分が多いとこの大事なお薬の効果が減弱してしまうデメリットもあるのです。
塩分を減らすと、血圧も下がり腎臓の負担が軽くなります。
具体的には加工食品や外食は特に塩分が多いので要注意です!
次にたんぱく質の摂取量についてです。
中等度以上の腎機能障害ではタンパク質を取りすぎない、ということも重要になってきます。タンパク質は体内で分解されると尿素・クレアチニン・アンモニアなどの老廃物に分解されるのですが、腎機能が低下すると、これらが体内にたまり尿毒症症状を引き起こしやすくなります。また、高たんぱく食は腎臓のろ過機能を過剰に働かせるために、糸球体の傷害や、尿たんぱくの増加を招きます。つまり、たんぱく質を制限することで、糸球体を休ませることにもなるんですね。
一般に慢性腎臓病のステージG1-2では過剰なたんぱく質摂取を避けることが推奨され、ステージG3a(GFR45-59)では 0.8-1.0g/kg標準体重/日、ステージG3b―G5では、0.6-0.8g/kg標準体重/日 程度のたんぱく質制限が推奨されています。
一方で高齢者で過剰なたんぱく質制限を行うと、必要なエネルギー摂取が減って筋肉量の低下や低栄養状態を招くことがあるため、極端な制限は望ましくないとも言われています。たんぱく質の適切な摂取量は個別に検討する必要があるため、ご自分の適切な摂取量については主治医の先生に相談して下さい。
2)血圧の管理(目標:130/80 mmHg未満)
血圧の管理・コントロールは腎臓を守る最強の習慣です!それほど血圧の管理は腎臓を守るために大切です。
腎臓病だから血圧に気をつけるのではなく、血圧をしっかり管理することで、腎臓を未来を守ることができます。
特に蛋白尿がある方は腎臓が傷んでいる証拠ですので、厳密な管理が必要になります。
一般的には血圧は蛋白尿がある場合とない場合、また糖尿病の有無によって、このような目標値が一般的です。
【慢性腎臓病での降圧目標】
分類 | 血圧目標(mmHg) | 補足 |
蛋白尿あり | <130/80 | アルブミン尿 ≧30 mg/gCrまたは蛋白尿+ |
蛋白尿なし | <140/90 | 収縮期血圧140未満をまず目標に |
糖尿病あり | <130/80 | より厳格な管理が推奨される |
(家庭血圧は 表記の-5mmHg)
ただし血圧の目標値は持病や年齢によって異なります。特に高齢者では低血圧によるめまいや立ちくらみ、腎臓の血流低下にも注意が必要ですので、具体的な数値目標については主治医の先生に聞くようにして下さい。
3)血糖値の管理(目標:HbA1c 7.0%未満)
慢性腎臓病(特に糖尿病性腎症)を予防・進行抑制するためには、糖尿病の管理が極めて重要です。糖尿病は、透析導入の最大の原因です。血糖値の管理が腎臓を救います。
糖尿病の状態を表す数値はHbA1Cです。腎臓・血管を悪化させないHbA1Cのコントロール目標値は一般的に7.0%未満です。
ただし高齢者では7.5%〜8.0%とすることもあり、個別の目標設定があります。
ここで大事なのは、糖尿病の方が腎臓を守るには、「血糖値、HbA1Cのコントロール」だけでなく「全身管理」が求められるという点です。
具体的には血糖のコントロールと同じくらい血圧のコントロールが大事!それから脂質(特にLDLコレステロール)、体重、運動習慣、禁煙、このような要因がすべて腎臓に影響するのです。ですので、糖尿病の方はHbA1Cの値だけでなく、総合的な管理で腎臓を守っていく必要があります。
4)脂質異常症の管理(目標:LDL-C<120、HDL-C ≧140、TG<150 mg/dL)
悪玉コレステロール(LDL-C)が高いと、腎臓の血管も動脈硬化を起こしますので、慢性腎臓病がある場合には、脂質異常症を管理することで心血管病や腎機能低下を抑制できる可能性があります。一般にはLDLコレステロール120 mg/dL以下が目標にされますが、合併疾患によってLDLコレステロールの目標値は変わります。まずは食事療法や運動療法が基本になりますが、改善がない場合はお薬を使った管理が推奨されます。
慢性腎臓病におけるLDL-C目標
患者背景 | LDL-C 目標値 |
冠動脈疾患あり | <70 mg/dL |
糖尿病あり | <100 mg/dL |
合併症なし | <120 mg/dL |
5)尿酸値の管理(目標:尿酸値≦6.0〜7.0 mg/dL)
尿酸値が高いと痛風の原因になる、というのはよく耳にすると思うのですが、それだけではないのです。尿酸は動脈硬化や糸球体の炎症・酸化ストレス・腎臓の間質線維化などの原因になり腎臓に直接ダメージを与えます。一般には6〜7㎎/dL以下が目標値であり、とくに痛風発作を起こしたことがある人、腎臓に結石がある人は6以下が目標になります。
6以下を維持すると関節や腎臓にできてしまった尿酸の結晶が溶けやすいからです。
高尿酸血症は過食、高プリン体、高脂肪、高たんぱく食、飲酒、運動不足などが原因になります。
6)運動と体重管理(目標:BMI 18.5〜24.9)
つぎに運動と体重管理についてです。
適度な運動は腎臓の負担を“間接的に”減らしてくれる生活習慣療法です。軽いウォーキングや体操、いわゆる有酸素運動を週に3〜5回、1回30分程度(週150分を目指す)続けることで、血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満の改善につながり、間接的に腎臓を守ることになります。ただしeGFRが30 mL/min/1.73㎡未満の場合、心疾患を合併している方は個別の相談が必要になるので、主治医の先生に相談するようにして下さい。
そしてもうひとつ大切なのが体重管理です。
肥満があると、腎臓のフィルターである糸球体に負担がかかり、ろ過機能が早く悪くなることが知られています。
体重を3〜5%落とすだけでも、尿たんぱくが減り、腎機能の進行がゆっくりになる可能性があります。無理な食事制限ではなく、バランスの取れた食事と軽い運動がポイントです。
7)禁煙と節酒
「タバコは腎臓の毛細血管を傷つける有害物質の塊です。
今こそ“やめどき”。禁煙は腎臓を守る最短ルートです。」喫煙者は非喫煙者に比べて末期腎不全(透析)に進行するリスクが1.5〜2倍になります。
また、アルコールは節度ある適度な飲酒、一般に純アルコール20g/日程度が理想といわれています。特にビールや日本酒は高尿酸血症を助長し、腎結石や腎障害の一因になりますので、飲みすぎには気を付けましょう。
いかがでしょうか。どれも地味で当たり前のことだなーと思われる方もいるのではないでしょうか?そうです。当たり前のことを地道に頑張る。それが腎臓を守る最強の習慣なのです。
動画はこちら↓
