心不全の自己管理ガイド:塩分・水分・体重測定・運動はどうする?循環器専門医が解説 – 町田市 – しながわ内科・循環器クリニック
結論:自己管理の柱は4つ。ただし「我慢大会」ではありません
結論からお伝えします。心不全の自己管理の柱は、①塩分を控える、②毎朝の体重測定、③薬を続ける、④体に合った活動を保つ——この4つです。そして同じくらい大切なのは、自己管理は我慢大会ではない、ということです。厳しすぎる制限は続かず、続かない管理は意味がありません。 何をどこまで行うかは、心臓の状態・お薬・生活によって一人ひとり異なります。このページでは一般的な目安と続けるための工夫をお伝えしますが、あなたの数値目標(体重が何kg増えたら連絡するか、水分をどこまでにするか等)は、診察で一緒に決めていきます。それこそが定期通院の役割です。
文責・監修:品川 弥人(しながわ ひさひと)院長
・ 医学博士/日本循環器学会 循環器専門医/日本内科学会 総合内科専門医
・ 北里大学病院 循環器内科の心不全診療グループに所属し、慢性心不全の専門診療に従事。北里大学医学部循環器内科学 助教を経て、ドイツ・ビュルツブルグ大学心不全センターに留学(日本心臓財団・バイエル薬品 海外留学助成受賞)
・ 一般内科医向けの解説書『プライマリケア医で診る慢性心不全』を出版。2015年から延べ255回、医師向けに心不全・高血圧の講演を実施(全国配信のWeb講演3回を含む)【要確認:書籍の出版社・発行年】
2026年;プライマリケアで診る慢性心不全改訂2版 中外医学社
2022年:プライマリケアで診る慢性心不全 中外医学社
・ 日本循環器学会・日本心臓病学会・日本心不全学会 所属/医療法人社団仁悠会 理事長
なぜ毎日の管理が「治療」なのか

心不全の悪化(急性増悪)の多くは、ある日突然ではなく、生活の中から静かに始まります。塩分を摂り過ぎると体は水分を抱え込み、血液量が増えて心臓の仕事量が増します。弱った心臓が処理しきれなくなると、水分が肺や足にたまり、むくみ・体重増加・息切れとして現れます。つまり、塩分と体重の管理は「悪化の芽を摘む治療そのもの」です。薬が心臓を守る治療なら、自己管理は心臓の仕事量を減らす治療。この両輪で再入院を防ぎます。
① 塩分:目標は1日6g未満。ただし「いきなり完璧」を目指さない
心不全の方の塩分摂取は、1日6g未満が一般的な目標とされています。日本人の平均摂取量は約10gといわれ、いきなり半分近くに減らすのは簡単ではありません。完璧を目指して挫折するより、効果の大きいところから段階的に減らすのが現実的です。
- 汁物は1日1杯まで。麺類の汁は残す(これだけで数gの減塩になります)
- 漬物・佃煮・干物・ハムやちくわなどの加工品を「毎日」から「ときどき」に
- しょうゆ・ソースは「かける」から「つける」へ。減塩調味料の活用も有効
- 酸味(レモン・酢)、香辛料、だしのうま味で、塩に頼らないおいしさを補う
- 外食・お弁当の日は、他の食事で調整。栄養成分表示の食塩相当量を見る習慣を
味覚は2〜4週間ほどで薄味に慣れていきます。ご家族と同じ食事で無理なく続ける工夫は、診察でもご相談ください。
② 水分:一律の制限ではありません。自己判断で減らし過ぎないでください
「心不全=水分制限」と思われがちですが、全員に厳しい制限が必要なわけではありません。制限が必要かどうか、必要ならどの程度かは、心臓の状態・腎機能・利尿薬の内容で決まります。むしろ夏場に自己判断で水分を極端に控えると、脱水から腎機能の悪化や血栓を招く危険もあります。あなたの適切な水分量は診察でお伝えしますので、自己判断での増減はせず、必ずご相談ください。
③ 体重測定:毎朝1回、同じ条件で。最も早く悪化に気づける方法です
体重は、体に水分がたまり始めたことを最も早く教えてくれる計器です。毎朝、起床して排尿を済ませた後、朝食の前に、同じ服装で測ってください。目安として、1週間で2kg以上の増加は、水分がたまり始めたサインとされています。「何kg増えたら連絡するか」はあなたの状態に合わせて診察時に相談します。当院オリジナルの血圧手帳に体重・血圧を記録して、診察時にお持ちください。この記録が、薬の調整の最も大切な資料になります。
④ 運動と休養:安静にし過ぎも、心臓によくありません
かつて心不全は「絶対安静」といわれましたが、現在は、安定している時期の適度な運動はむしろ心臓と体力を守ると考えられています。動かないでいると筋力が落ち、同じ動作でも心臓への相対的な負担が増えるからです。散歩などの軽い有酸素運動を、息が軽く弾む程度・会話ができる強さで行うのが目安です。ただし、息切れやむくみが強い時期・体重が増えている時期は運動を控え、まず受診してください。あなたに合った運動の種類と量は、心臓の状態を確認しながら診察でご提案します。
入浴・お酒・タバコ・旅行はどうする?
入浴
入浴は心臓に一定の負担がかかりますが、正しく入れば楽しめます。目安は、ぬるめのお湯(41度以下)で10分以内、みぞおちまでの半身浴が安心です。熱いお湯・長湯・サウナと水風呂の組み合わせは心臓に大きな負担をかけるため避けてください。脱衣所と浴室の温度差(ヒートショック)にもご注意を。
お酒・タバコ
タバコは血管を傷め心臓の負担を直接増やすため、心不全の方は禁煙が必須です。ご自身の力だけで難しい場合は、当院の禁煙外来をご利用ください。お酒は、原因となった病気やお薬によって考え方が変わるため、量とタイミングを診察でご相談ください。
旅行・冠婚葬祭
あきらめる必要はありません。事前にご相談いただければ、無理のない行程の立て方、薬の持参と飲み忘れ対策、旅先で症状が出たときの対処をご案内します。「楽しみのために管理する」——この順番を大切にしてください。
感染対策とワクチン:悪化の引き金を防ぐ
インフルエンザなどの感染症は、心不全悪化の大きな引き金です。毎年のインフルエンザ、肺炎球菌ワクチンなど、推奨される予防接種を受けてください(当院で接種できます。診察時にご相談ください)。当院は風邪症状の方の外来時間を一般外来と分けて運用しており、通院時の感染リスクにも配慮しています。
ご家族と目安を共有してください
体重の増え方や息切れの変化は、ご本人よりご家族が先に気づくことも多いものです。このページの内容と「連絡する目安」をご家族と共有しておくと、悪化の早期発見の網が二重になります。ご家族向けには「家族が心不全と診断されたら」のページもご用意しています。
まとめ:管理の答えは、診察室で一人ひとり違います
ここまでの内容は、あくまで一般的な目安です。塩分をどこまで、水分をどれだけ、運動をどの強さで、体重が何kg増えたら連絡するか——その答えは、あなたの心臓の状態と生活によって変わり、状態の変化とともに更新されていきます。当院では624名の慢性心不全の患者様お一人おひとりと、この「あなた仕様の管理」を定期通院の中で作り、育てています。決めた目安は血圧手帳に書き込み、迷ったら遠慮なくご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 減塩食がどうしても続きません。
A.全部を薄味にするより、「濃い味を1品だけ残して他を薄く」「汁物を減らす」など、満足感を残す工夫が長続きのコツです。続かない理由(味・手間・家族と別メニューになる等)を診察で教えてください。現実的な落としどころを一緒に探します。
Q2.夏は脱水が心配です。水分は控えるべき?摂るべき?
A.状態によって答えが変わる、最も個別性の高い質問です。自己判断で極端に控えることはかえって危険な場合があります。夏前の診察で、あなたの夏場の水分のとり方を必ず確認してください。
Q3.果物やカリウムは摂ったほうがいいですか?
A.お薬の種類や腎機能によって、カリウムを積極的に摂るべき方と控えるべき方に分かれます。一般論で判断せず、血液検査の結果とあわせて診察でご確認ください。
Q4. 体重がむしろ減ってきています。良いことですか?
A.意図しない体重減少や食欲低下が続く場合は、良い兆候とは限りません。心不全の進行に伴う変化のこともあるため、「痩せてきた」も大切なサインとして診察で教えてください。
Q5.サウナや温泉は入ってもいいですか?
A.サウナと水風呂の組み合わせは心臓への負担が大きく、おすすめできません。温泉はぬるめ・短時間・半身浴を守れば楽しめる場合が多いですが、泉質や滞在環境にもよるため、旅行前にご相談ください。
Q6.運動はどのくらいの強さまでやっていいですか?
A. 目安は「会話しながら続けられる強さ」ですが、適切な強度は心臓の状態で異なります。診察で心エコーや症状を確認しながら、種類・時間・頻度を具体的にご提案します。新しい運動を始める前には一度ご相談ください。