心不全の薬にはどんな種類がある?「調子が良いのにやめてはいけない」理由を循環器専門医が解説 – 町田市 – しながわ内科・循環器クリニック
結論:心不全の薬は「守る薬」と「楽にする薬」の2階建てです
結論からお伝えします。心不全の薬は、大きく2つに分けて理解してください。①心臓を長期的に守る薬(症状がなくても飲み続ける薬)と、②症状を楽にする薬(利尿薬など、状態に応じて調整する薬)です。
そして最も大切なことは、「調子が良いから」と自己判断で薬をやめないことです。守る薬は、症状を感じない水面下で心臓の悪化を食い止める仕事をしています。症状がないのは「治った」のではなく「薬が効いている」証拠であることが多いのです。このページでは、それぞれの薬が何をしているのか、なぜ続けるのかを解説します。
文責・監修:品川 弥人(しながわ ひさひと)院長
・ 医学博士/日本循環器学会 循環器専門医/日本内科学会 総合内科専門医
・ 北里大学病院 循環器内科の心不全診療グループに所属し、慢性心不全の専門診療に従事。北里大学医学部循環器内科学 助教を経て、ドイツ・ビュルツブルグ大学心不全センターに留学(日本心臓財団・バイエル薬品 海外留学助成受賞)
・ 一般内科医向けの解説書『プライマリケア医で診る慢性心不全』を出版。2015年から延べ255回、医師向けに心不全・高血圧の講演を実施(全国配信のWeb講演3回を含む)【要確認:書籍の出版社・発行年】
2026年;プライマリケアで診る慢性心不全改訂2版 中外医学社
2022年:プライマリケアで診る慢性心不全 中外医学社
・ 日本循環器学会・日本心臓病学会・日本心不全学会 所属/医療法人社団仁悠会 理事長
なぜ飲み続けるのか:「リモデリング」を知ると理由がわかります

心不全の心臓では、弱ったポンプ機能を補おうとして、体の中でさまざまなホルモンや神経の働きが過剰になります。短期的には心臓を助けるこの反応が、長期的には心臓の筋肉を疲れさせ、心臓の形や構造そのものが悪い方向へ変わっていきます。これを「リモデリング(再構築)」と呼びます。リモデリングは心筋梗塞、不整脈、コントロールされていない高血圧や糖尿病の合併によって、症状のない間も静かに進み、進むほど心不全は悪化します。
現在の心不全治療薬の多くは、このリモデリングを引き起こす過剰な反応にブレーキをかける薬です。つまり、症状を消すためではなく、心臓の構造的な悪化を止めるために飲む薬です。だからこそ、症状の有無と関係なく続ける必要があります。研究では、これらの薬を適切に続けることで、入院や生命に関わる悪化を減らせることが示されています。
① 心臓を「守る薬」:作用の異なる複数の系統を組み合わせます
近年、心不全の薬物治療は大きく進歩し、作用の異なる複数の系統を組み合わせて心臓を多方面から守ることが標準的な考え方になっています。主な系統は次の通りです(一般名の系統で示します。あなたの処方がどれに当たるかは、お薬手帳を見ながら診察でご説明します)。
| 系統 | はたらきのイメージ |
|---|---|
| レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬/ARB/ARNI) | 心臓に負担をかけるホルモンの働きを抑え、血管を広げて心臓の仕事量を減らし、リモデリングを抑えます |
| β(ベータ)遮断薬 | 過剰に働く交感神経を抑え、心拍を落ち着かせて心臓を休ませ、長期的に心機能の改善を助けます |
| ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) | 心臓の線維化(硬くなる変化)を進めるホルモンを抑えます |
| SGLT2阻害薬 | もともと糖尿病の薬として開発されましたが、糖尿病の有無にかかわらず心不全の入院・悪化を減らすことが示され、心不全治療の中心的な薬の一つになっています |
これらは「少量から始めて、体の反応を見ながら段階的に目標量へ増やしていく」使い方をします。飲み始めや増量のときに、だるさ・ふらつき・血圧低下を感じることがありますが、多くは一時的です。自己判断でやめず、必ずご相談ください。用量の調整こそ、専門医の腕の見せどころです。
② 症状を「楽にする薬」
~利尿薬~
利尿薬は、体にたまった余分な水分を尿として出し、むくみや息苦しさを楽にする薬です。心臓そのものを治す薬ではありませんが、うっ血の症状を取る大切な役割を担います。「トイレが近くなって困る」という声をよくいただきますが、外出の予定に合わせた服用タイミングの工夫は可能です。自己判断で減らしたり抜いたりせず、生活の困りごととして診察で教えてください。体重の増減に応じて量を調整していく薬でもあるため、毎朝の体重測定(自己管理ガイド参照)とセットで使いこなす薬です。
そのほかの薬
心房細動を合併している方の抗凝固薬(血栓を防ぐ薬)、原因となった病気(高血圧・狭心症・糖尿病など)の薬も、心不全の管理の一部です。他の医療機関やほかの科から処方されている薬・市販薬・サプリメントとの飲み合わせの整理は、かかりつけ医の大切な仕事です。お薬手帳は毎回お持ちください。
「調子が良いので、薬をやめたい」への答え
お気持ちはよくわかります。しかし、守る薬の中断は、心不全悪化の最も多い入口のひとつです。やめた直後は何も起こらないため「やめても大丈夫だった」と感じますが、水面下でリモデリングが再び進み、数週間〜数ヶ月後にむくみや息切れとして現れることが少なくありません。悪化してからでは、入院が必要になったり、心機能が中断前の水準に戻らなかったりすることもあります。
やめたくなる理由の多くは、解決できます。錠数が多くて大変→配合剤や一包化で整理。費用が負担→ジェネリック医薬品への変更を検討。副作用がつらい→系統内での変更や用量調整。飲む意味がわからない→この記事とあわせ、診察であなたの処方の意図を一つずつご説明します。「やめたい」と思ったら、やめる前に、その気持ちごと診察室へお持ちください。
副作用の管理と定期採血
~薬と通院はセットです~
心不全の薬は、腎臓の働き・カリウムなどの電解質・血圧に影響を与えることがあります。だからこそ、定期的な血液検査と診察で「効き具合」と「体への影響」の両方を確かめながら使うのが前提の薬たちです。当院では検査を院内で行い、結果に応じてその場で用量を調整します。薬だけを長期でもらい続けて検査をしない状態は、安全とはいえません。定期通院は、薬を安全に効かせるための仕組みそのものです。
当院の薬物治療の考え方
~研究に裏づけられた薬剤選択~
院長はドイツ・ビュルツブルグ大学留学中、心筋の炎症と、心筋梗塞後のリモデリング——心筋の構造的変化が慢性心不全へ進行していくメカニズム——を抑制するための基礎研究に従事しました。どのような薬剤がなぜ心筋の炎症やリモデリングを抑えるのか、その作用の根拠を研究レベルで理解した上で、お一人おひとりの病態・腎機能・血圧・生活に応じた薬剤の選択と用量調整を行っています。
また院長は、一般内科医向けの解説書『プライマリケア医が診る慢性心不全』を出版し、2015年から延べ255回、医師向けに心不全・高血圧の講演を行ってきました。医師に心不全の薬の使い方を解説してきた専門医が、あなたの処方を設計します。「なぜこの薬なのか」を、納得できるまでご説明します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 薬は一生飲み続けるのですか?
A.くの場合、守る薬は長期に続けることが前提です。ただし、心機能の回復の程度によって処方内容は変化し得ます。減らせるかどうかを含め、検査結果にもとづいて定期的に見直すこと自体が治療です。自己判断での中断だけは避けてください。
Q2. 飲み忘れたときはどうすればいいですか?
A.気づいたタイミングと薬の種類によって対応が異なります。2回分をまとめて飲むことは避けてください。飲み忘れが続く場合は、回数の少ない処方や一包化などの工夫ができますので、正直に教えてください。
Q3.ジェネリック医薬品に変えても大丈夫ですか?
A.多くの薬でジェネリックへの変更が可能で、費用の負担を減らせます。切り替えの可否と注意点は薬剤ごとに異なるため、診察・薬局でご相談ください。
Q4.市販薬やサプリメントを一緒に飲んでもいいですか?
A.一部の市販の痛み止めなどは、心不全を悪化させたり薬の効果に影響したりすることがあります。市販薬・サプリメントを使う前に、必ずお薬手帳とあわせてご相談ください。
Q5. 利尿薬でトイレが近く、外出がおっくうです。
A.服用の時間帯を外出予定に合わせて調整できる場合があります。自己判断で抜くのではなく、生活パターンを教えてください。生活の質と治療を両立させる調整は、遠慮なくご相談いただきたい代表的なテーマです。
Q6.糖尿病ではないのに「糖尿病の薬」が処方されました。間違いではないですか?
A.間違いではありません。SGLT2阻害薬は糖尿病の薬として開発されましたが、その後の研究で、糖尿病のない心不全や慢性腎臓病の患者さんにも入院や悪化を減らす効果が示され、現在は心不全治療の中心的な薬の一つになっています。疑問に思われたら、その場でお尋ねください。